某月某日
デザインで行き詰まる時。晶文社編集部や営業部から駄目出しが出るとき。
それは私の体調が悪いときか、マックでばかりデザインしているときだ。
フランス語であえていう必要もないのだが、Les heures dolentesとかいう感じか。くるしい時間である。
マックを使えばデザイナーと思っているひとは、さすがにいないと思うが(歴史上のある時期、そういう時期があったのだ。デザイナーどころか、アーティストになれちゃったのである)、マックには時々、三十年使っている私をしてそう錯覚させてしまうほど便利なところがあるようだ。
アドビの同じソフトを使っていても、マックで使うのとウィンドウズで使うのは微妙に違う。
マックでやると楽なのだ。そこが危険なところ。マックでなんでもできてしまうところがある。
そういうデザインは、私の場合薄っぺらいし、失敗したなあというのは大抵マックにばかり向かっていたときだ。
そういうときは、紅茶を受皿で飲むのもいいけれど、私の場合、鉛筆と紙が大事だ。
鉛筆は、銀座にある画材店の、8B鉛筆を使う。
8Bというと、美大を受験する学生にも「そんなのあるんすか」と呆れられるくらいだから、そうとう木炭に近い鉛筆なのだろうか。
鉛筆自体が太く、芯も太い。やわらかいから細い線にはならない。
これでまずもぞもぞと描いてみる。紙は、書籍用紙の余りのクリーム色のやつ。ざらざらしたやつがいいとおもうが、なんでもいい。
これで描くと、まず描くものは文字でも物体でも漫画じみてくる。
絵のうまいひとが使えば違うのだろうが。それを、デザインするものによって、ケント紙に自在定規で描き直したりしていく、そういうときはシャープペンシルを使う。そこでも太さは0,5よりは太い。
それから、ああ、そこにあったんだという感じで、ここではじめておもむろにマックに向かって、IllustratorなりInDesignなりを起動する。スキャナで取り込んだり、拡大して精緻にトレースしたり。
そういうときのデザインは、ふしぎと評判がよい。