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概要

yoshimoto

本文組み見本(13.5 級 46 字× 21 行 行間8.5 級)組み見本140戦後世代の政治思想│ テントの中でも月見はできる雨がふったらぬれればいいさ(雪山讃歌)1現在、わたしたちは、おおきく膨んだ国家独占社会で、くらげ?? ?? ??のように浮きつ沈みつしながら生きている。足はアスファルトや土をふみしめているが、思想はアトム化してめまぐるしい社会現象をおうため、人間はついに社会現象そのもののようにしか存在できない。この新しい社会体験はわたしたちの周囲が、戦前よりもはるかに膨大にふくれあがって視えるところからきている。そこでは、鋭い社会的な不安定感が、形にそう影のように飽和感とむすびついている。しかし、あるものは、いや、戦前にくらべれば、十分に高度になった社会様式のなかで平和な日々を享受しているというかもしれない。これもまた、当然なことである。波立った海でも、水面下数十米で、すでにおだやかな世界に到達できるのだ。わたしが危機とよぶとき、たれかが平和とよび、わたしが時代閉塞とよぶとき、たれかが希望のもてる未来とよぶとしても、異議をとなえることはできない。そこには、現実理解の共通点がないからである。わたしたちの政治思想や文学思想を、混乱と分裂におとしいれている原因はここにある。まず、わたしたちは、水面上にとびだして、現在、政治的に、思想的に、あるいは文学的に、生活的に直面しているあらゆる困難が、独占支配から派生したものであることを確認したうえで、おもむろに水面下の世界に下降してみなければならない。