『だれも買わない本は、だれかが買わなきゃならないんだ』刊行記念 著者インタビュー

都築響一、自著を語る

書名の由来

『だれも買わない本は、だれかが買わなきゃならないんだ』この本のタイトルは、先日ヤンゴンで亡くなったジャーナリスト・長井健司さんの「だれも行かない場所には、だれかが行かなきゃならない」という言葉がヒントになってます。長井さんが亡くなったニュースをテレビで見たときにこの言葉を知って、ドキッとしたんです。自分と似てると思った。

この国のメディアは、長井さんのような何の保障もないフリーの人たちによって支えられている。話題になる記事や特集をやって手柄になるのはその社だけど、実際に現場を支えているのは名もないフリーの人たちです。それはテレビでも雑誌でも単行本でも同じだと思う。大きなテレビ局の人間は、彼らからもらった映像を流してるだけで現地には行きもしない。事件の一連の報道を見て、そんなことをあれこれ考えてるうちに、このタイトルを思いついたわけ。

この本は、今まで本や本屋について書いてきた文章を集めたものだけど、仕事に対する姿勢は長井さんと同じだ、という気持ですね。

本の世界の現場へ

僕は地方に取材で行くことが多くて、そのたびに書店に寄ります。すると、ときどきすごくいい店がある。でも、こっちにいると東京の大きな書店の話は出てきても、地方の面白い書店の話は出てこない。ガイドマップもないでしょ?

今、普通の出版社では、編集どころか営業の人間でも、地方の書店なんて全然廻らないですよ。地方でがんばってる書店なんて、だれも行かない。でもそういう書店の人たちこそ、一番がんばって本を売ってくれてるんだと僕は思う。書店の将来は暗いなんていわれるけど、もしかしたら東京以外に面白い書店がたくさんあるんじゃないか。そう思ったのが、「本屋に出会う」のもとになった書店探訪の連載のきっかけです。

本屋さんて、どんな出版社の人間よりも本に詳しいんです。美術も同じで、美術に一番詳しくて作品の良し悪しをわかっている人がだれかというと、キュレーターでも評論家でもなくて、実は展覧会場の隅でパイプ椅子に座っているお姉さんたちです。その人たちが一番詳しい。彼女たちに話を聞くと、良い作品とつまらない作品とでは交代する時間が違うんだそうです。良くない作品のあるところに長時間いると胸が苦しくなることがあると。居心地が悪くなるんですね。同じ作品を一ヶ月も二ヶ月も見ているわけで、それはだれより良さも悪さもわかるはずですよ。でもああいう人たちに話を聞く美術雑誌なんてひとつもない。作品の世界を日々体感している現場の人たちなのに。

本の世界でいえば、それが書店員さんたちなんです。彼らこそ、本の世界の最前線を日々体感している人たちでしょう。ここ数年でようやく本屋大賞みたいなものが出てきたけど、遅すぎますよね。今まで、いかに出版社が彼らとのコミュニケーションを怠ってきたかということだと思います。