『だれも買わない本は、だれかが買わなきゃならないんだ』刊行記念 著者インタビュー

都築響一、自著を語る

僕は編集者でジャーナリスト

僕は自分のことを、文筆家や写真家ではなく編集者、ジャーナリストだと考えています。じゃあなぜ自分で書いたり写真を撮ったりしているかというと、単に予算がないから。本当は、僕の思うように写真を撮ったり書いたりしてくれる人がいれば、一緒に連れていきたい。そしたらインタビューに専念できますから。本当に必要に迫られて、仕方なく一人でやってるんです。そういってもなかなかわかってもらえないんだけど(笑)。

最初の長井さんの話じゃないけど、多くの人が誤解しているのは、この仕事について、やりたいことができて幸せだという見方をすることです。だけど、そうじゃない。「やらなきゃならない」と感じていることだからやってるだけなんです。やりたい、やりたくないではなくて、「やらなきゃならない」「自分がやらなきゃ仕方がない」からやっている。だれに強制されているわけでもないけど、でも、今自分がやらなきゃどうにもならないからこれをやるという、それが本来の意味でのジャーナリストの仕事だと思ってます。

だれも報道しないうちにソマリアでどんどん人が死んでいく。だけど、俺が行かなきゃだれも行かないと思うからやるわけでしょう。これまでの僕の仕事、たとえば「珍日本紀行」のような仕事だって、他にだれもやらないから、やむにやまれずやってたんですよ。

書評の仕事もそう。僕が取上げるのは、小さな版元の本だったり自費出版だったりで、他では取上げられない本が多い。でも、よく考えてみれば、大きなメーカーの商品と並べて小さなメーカーや自主制作の商品が一緒に売られてるなんて、本の世界では珍しくても他の業界では普通のことですよね。自主制作CDと一緒に、マドンナやマイケル・ジャクソンのCDも買うなんてごく普通でしょう。有名ブランドの服も買うけど、原宿の手作りアクセサリーも一緒に買って合わせてみようとか。それなのに本だけがなぜか違う。選択の幅がすごく狭く見える。だから、よく目にする本の他に、これだけたくさんの面白い世界があるんだということを伝えたかった。

書評で取り上げる本は、自分で何冊も買ったなかから選ぶから、赤字になりそうなくらいで、直接的なメリットはあまりない(笑)。でも仕方がない。そこで僕がやらなければ、良い本が知られないまま世の中から消えちゃうんだから。そういう気持でやってました。

走りながら読む

長い間書評を書いてきたけど、僕自身は愛書家でも蔵書家でもありません。親が本好きだったから、子どもの頃は家族で神保町に出かけたりして、本の世界に親しんではいました。でも今は、本屋で良さそうな小説を買ってきて、夜にお茶を飲みながらソファでゆっくり読むなんてことはほとんどない。いつも地方や海外に出かけていて時間がないということもあるけど、そもそもそういうことをしようという気にならない。

それよりも、たとえばインドネシアに行くでしょう。すると、それまで厳格なイスラムの世界だと思ってたのに、ものすごい売春の世界が広がっていて驚いたりする。これは何だと。そのための参考になる本を探して、現地で読む。そんなふうに、いろいろなところを訪ねていくための地図として、本と読書があるんです。

僕の読書は、移動しながら、走りながら読むスタイルで、ゆっくり趣味の本を読んでもいられない。「無人島に持っていく一冊」みたいな本も特にないですし、趣味の読書人じゃないんですよ。本へのフェティッシュな執着も全然ない。旅先で読み終わった本は、そのまま置いてきちゃったりします。旅の荷物を軽くすることの方が大事だから。

フットワークで集めた本

僕は学者でもプロの書評家でもないけど、ただこの本に、そういう専門の人たちの本と違うところがあるとすれば、フットワークです。毎週一回大型書店に通ってるだけでは、この本のラインナップは作れない。自分の足であちこち行って探してきたり、作者に会いに行ったり、いろんなことをしないとこの集め方はできない。そこだけはかなり違うはずです。

今、出版の世界は過渡期ですが、そのうちきっと新しい販売の形や流通システムが生まれてくると思う。そういう面白い動きを、これからも追いかけたいですね。僕自身も、去年「HENRY DARGER’S ROOM」(インペリアルプレス)という本を、自費出版しました。第二弾も準備中です。

これを読んだ人が、少し見つかりにくくても、出てきた本を自分から探しに出かけてくれればいい。もっといえば、自分で本屋を作っちゃったり。僕の本が、読者自身が何かの行動を起こすきっかけになれば最高ですね。
(おわり)

*出版ダイジェスト2008年3月1日号掲載インタビューを改題

都築響一 ◆都築響一
1956年生まれ。編集者・ライター。「ポパイ」「ブルータス」編集部を経て、『アートランダム』(京都書院)や『TOKYO STYLE』(京都書院・ちくま文庫)など、現代美術・居住空間に関する書籍を手がける。また96年刊行の『ROADSIDE JAPAN 珍日本紀行』では、木村伊兵衛賞を受賞。その後も多くの話題作を発表し続けている。
著書に『賃貸宇宙』(筑摩書房)『夜露死苦現代詩』(新潮社)『性豪 安田老人回想録』(アスペクト)『巡礼―珍日本超老伝』(双葉社)『やせる旅』(筑摩書房』など。